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大阪地方裁判所 昭和55年(行ウ)96号 判決

原告

株式会社大阪有線放送社

右代表者

宇野元忠

右訴訟代理人

浜崎憲史

浜崎千恵子

被告

南税務署長

塩見中

右指定代理人

田中治

外三名

主文

一  被告が原告に対し昭和五三年一二月一四日付をもつてした物品税決定処分及び無申告加算税賦課決定処分のうち、昭和四九年六月、同年一〇月、同年一一月、同年一二月、同五〇年六月、同五一年七月、同五二年二月の各月分の物品税決定処分について、別表(二)の右各月に対応する「税額」欄に記載の各金員を超える部分、及び、昭和四九年一〇月、同五〇年六月、同五一年七月、同五二年二月の各月分の無申告加算税賦課決定処分について、別表(二)の右各月に対応する「無申告加算税額」欄に記載の各金員を超える部分を、いずれも取消す。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

一当事者双方の求めた裁判

1  原告

(一)  原告が被告に対し昭和五三年一二月一四日付をもつてした物品税決定処分及び加算税賦課決定処分を取消す。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

二請求原因

1被告は、原告に対し、原告が有線放送用に録音した録音テープ(以下、「本件テープ」という。)を、物品税の課税対象になるとして、昭和五三年一二月一四日付をもつて、昭和四八年一〇月分から同五三年二月分までにつき、別表(一)に記載のとおりの額の物品税決定処分(合計金一二八一万七九〇〇円)及び、無申告加算税賦課決定処分(合計金一二七万九一〇〇円)をした(以下、「本件処分」という。)。

原告は、これに対し、昭和五四年二月一五日、被告に対し異議の申立を行つたが、被告は、同年三月二九日に異議棄却の決定をしたので、原告は、さらに昭和五四年四月二五日、国税不服審判所に対し審査請求をしたところ、同審判所は、昭和五五年九月一一日審査請求棄却の裁決をした。

2被告は、本件テープは、本件処分当時の物品税法一条別表第二種第一〇号の7に、「磁気音声再生機用のレコード」と規定しているものに該当し、かつ、物品税法九条に基づき、非課税物品を定めた物品税法施行令別表第一に、有線放送の用に供する目的をもつて録音したものが掲げられていないとして、本件処分をした。

3しかしながら、被告の右解釈は、次の点において誤つており、本件処分は違法である。すなわち、

(一)  物品税法別表第二種一〇号の7は、「蓄音器用又は磁気音声再生機用のレコード」としているが、本件テープは、これに該当しないものと解すべきである。

すなわち、レコードは記録を意味し、「音声再生機用レコード」とは、音声の記録保存を目的として定着された商品と解すべきであるが、本件テープの大部分は、一過性の音声定着すなわち一日ないし数日で使用済となるものであるから、別表一〇号の7に該当しないものというべきである。

(二)  また、物品税法三条二項にいわゆる「製造」とは、新たな価値を付加させる作業であり、同条にいわゆる「移出」とは、その商品としての出荷を意味するものと解すべきところ、本件処分の対象とされた本件テープは、右のいずれにも該当しないのである。

すなわち、本件テープの録音作業は、有線放送機器の必要不可欠な部品を構成する放送用テープに、放送のため一時固定する作業であり、放送機器すなわちテープの使用行為、消費行為であって、販売用ミュージックテープの録音とは異り、物品税法三条二項の「製造」には該当しない。また、本件テープを録音室から物理的に移動させるのは、放送機器にセットするためのものであり、「移出」すなわち付加価値の移動出荷には該当しない。

4したがつて、以上いずれにしても、本件テープは、物品税法上の課税の対象となるものではないから、本件テープに物品税を課した本件処分は違法である。

よつて、原告は、本件処分の取消を求める。

三被告の認否

1  請求原告12の事実は認める。

2  同34は争う。

四被告の主張

1本件処分の経緯

(一)  原告は、多数の顧客(飲食店、喫茶店等を営業する者)から毎月受信料を徴してこれらの顧客に対し、音楽放送を有線により提供することを主たる業務内容としているいわゆる大手の有線放送業者である。

(二)  原告は、大阪市南区高津町五番丁九の一の自己の製造場において、市販の蓄音機用レコード(LPレコード、EPレコード等と呼称されているものを意味する。)から音楽等を磁気テープ(カセットテープあるいはオープンリールテープと呼称されているものである。)に録音し、当該磁気テープ(物品税法別表第二種一〇号7に掲げる「磁気音声再生機用のレコード」に該当する。)を自己の放送所において有線放送に使用し、あるいは他の同業者等に対しこれを無償で譲渡し又は有償で販売していたものである。

(三)  市販の蓄音機用レコードから磁気テープに録音する行為は、「磁気音声再生機用のレコード」の製造となり、原告について物品税法一〇条の適用除外事由のない限り、原告はこれら製造した磁気テープのうち、使用(自己の製造場の放送所において使用したものは物品税法六条一項の規定により移出したものとみなされる。)及び販売(通常の製造場からの移出)した磁気テープについて、物品税法三条二項の規定により物品税を納める義務がある。

しかるに、原告は、本件テープについて、物品税納税申告をしていなかつたので、被告はこれらの事実を調査したうえ、昭和五三年一二月一四日付けで昭和四八年一〇月分から昭和五三年二月分までの物品税及び無申告加算税について、別表(一)に記載のとおり各決定処分並びに各賦課決定処分(本件処分)したのである。

2本件テープは、物品税法上の課税物品に該当する。

すなわち、

(一)  物品税法一条(課税物品)には、「別表に掲げる物品には、この法律により物品税を課する。」と規定され、本件処分当時の同法別表の第二種一〇号7には「蓄音機用又は磁気音声再生機用のレコード」が掲げられているところ、同品目のうち、「磁気音声再生機用のレコード」は、磁気音声再生機によつて再生するための音声その他の音を記録した磁気テープ、磁気シート、磁気円盤等をいうものであり(物品税法基本通達別表第一課税物品の取扱い第二種10の27)、本件テープはまさにこれに該当する。

(二)  次に、物品税法九条(非課税)には、同法別表に掲げる物品のうち、非課税物品のあることを規定し、本件処分当時の同法施行令別表第一の一〇号7において、「磁気音声再生機用のレコード」のうち、主として特定の内容を録音したものを非課税物品とし、これを限定して、個々に掲げている。本件テープは、これら非課税物品のいずれにも該当しない。

(三)  非課税物品とは、物品税法別表に掲げられている物品のうち、一般消費者の生活又は産業経済に及ぼす影響を考慮して、物品税を課さないことが適当であるとして、法令をもつて規定されているものであるが、その非課税物品の基準については、各品目別に個々具体的に定められており、その基準に該当しない限り、その物品がたとえどんなに特殊な性状、構造又は機能を有するものであつても、非課税物品とはならないのである。

したがつて、物品税法別表に掲名され、同法施行令別表第一の非課税規定に該当しない本件テープが課税物品であることは明らかである。

(四)  なお、本件テープの大部分が、一日ないし数日で使用済みとなるところから、原告主張の如く、本件テープが、物品税法別表の「磁気音声再生機用レコード」に該当しないとはいえないのである。

すなわち、本来磁気テープの最大の特性は、繰り返しての録音を消去し、新たな録音を行うことができることであり、その録音内容をいかにしても消去できないよう完全に固定することは、物理的に不可能であり、その反面磁気テープに録音された内容は、消去されない限り、何度でもこれを再生使用することができる。したがつて、本件テープも、一度録音すれば、その録音内容が消去されるものではなく、新たな編集で再録されるまで、そのまま繰り返し再生使用されている。また、原告の営業目的のため編集した同一内容の磁気テープが多数あり、その一部が他の有線放送業者に有償で販売されている。このように、本件テープは、一定の回転速度の機能を備えた再生機であれば、いつどこでも再生使用できるものであり、それ自体独立した物品である。

さらに、課税物品の典型と思われるいわゆるミュージックテープでさえ、その顧客が、それを購入直後、一定の簡単な操作を加えれば、従前録音されている音楽を消去して新たに別個の内容を録音することも可能であることを考えれば、録音内容が一時的か否かが問題とならないことは明らかとなる。むしろ重要なのは、本件テープにしろミュージックテープにしろ、その内容である音楽が、商品価値を有するものとして、販売あるいは放送という形態で使用されていることである。

(五)  以上、その性状、機能、構造及び用途等を総合するに、本件テープは、物品税法別表第二種一〇号7の「磁気音声再生機用のレコード」に該当する課税物品であることは明白である。

3本件テープの録音作業は、物品税法三条二項の製造に該当する。

すなわち、物品税法に規定する「製造」とは、原則として、社会通念によるものであつて、材料又は原料に物理的若しくは化学的な変化を与え、若しくは操作を加えることにより、新たな課税物品を造り出す行為をいい、当該材料又は原料は新しいものであると古いものであると、また素材であると製品であるとを問わない(物品税法基本通達一七条参照)。

したがつて、本件テープの録音作業、すなわち未録音の磁気テープに録音する行為、及び、録音済みの磁気テープ等の録音を消去し、これに新たな録音をする行為は、いずれも、本件磁気テープの製造に該当するもので、たとえ製造された本件テープの使用期間が短期間であつても、この判断に影響を及ぼすものではない。

また、物品税法上、磁気テープ等に音楽を録音することを「製造」と解すべきことは、物品税法施行令別表第一の一〇号7の非課税物品欄において、「……録音したもの」と規定していることからも窺えるのである。

4本件テープの使用は、物品税法三条二項所定の移出に該当する。

すなわち、物品税法に規定する「移出」とは、売買、贈与、交換その他原因のいかんを問わず、課税物品をその製造にかかる製造場から現実に当該製造場以外の場所に移動する事実行為をいうものである。そして、物品税法六条は、課税の権衡上又は物品税の保全上から、「みなし移出」の規定を設け、当該課税物品が当該製造場内において本来の力に供された場合においても、これを移出とみなすこととしている。

したがつて、原告が本件テープを放送のため製造場(録音した場所)からさん下各放送所へ移転させる行為が物品税法にいう「移出」に当るのはもちろんのこと、当該製造場で使用して放送する行為も「移出」とみなされるものである。

5原告は、物品税法三条二項の納税義務者である。

すなわち、物品税法三条二項は、「第二種物品の製造者は当該第二種の物品(課税物品に該当するものに限る。)で、その製造にかかる製造場から移出されたものにつき、物品税を納める義務がある。」と規定しているところ、以上述べてきたところから明らかなように、原告は、まさに本件テープの製造者で、かつ、それを移出したものであるから、本件テープにつき物品税を納める義務があるというべきである。

6物品税法施行規則による課税標準額等

原告が、その製造場において製造した本件テープの課税原因は、(イ)原告の製造場内の放送所で使用した場合、(ロ)原告傘下の各放送所に移出した場合、(ハ)他の有線放送業者に販売のため移出した場合、に発生したものであるところ、これらの各場合につき、物品税法一一条一項二号に規定する課税標準額は、その移出形態等から、いずれも同条三項の規定により委任を受けた物品税法施行令一〇条後段の「販売以外の目的で当該物品を当該製造場から移出した場合、その他前二条の規定に該当しない場合」の規定に該当するので、本件テープの課税標準額を、次の方法により、算出した。

(一)  原告の製造場内の放送所で使用し、或いは、原告傘下の各放送所に移出した場合

右の場合、物品税法施行令一〇条の委任を受けた物品税法施行規則四条一項の「第二種の物品の製造者が販売以外の目的で当該物品を当該製造場から移出した場合」該当するので、同項各号の規定により計算すべきところ、同項一号及び二号の実績がないため、被告は、同項三号の「当該製造者が当該移出の日の属する月の前月中にその製造に係る製造場から消費者に当該同一規格の物品または類似物品を移出した実績があり、かつ、当該移出された物品に係る課税標準の計算につき規則六条一項三号の適用があつた場合、当該前月中に移出した当該同一規格の物品または類似物品につき、規則六条一項三号の規定により計算した金額」の規定に基づいて計算した。

なお、本件テープのうち、右規則四条一項三号の実績がないものについては、同項四号の実績がないため、同項五号の規定により計算すべきところ、原告の業態の特殊性等から、製造及び販売費用の計算が極めて困難かつ合理性に欠けるため、被告は、物品税法基本通達八三条の規定により、本件テープの一個当りの課税標準額(いわゆる「税抜価格」である。)を、一〇インチオープンリール型のものを金二四〇〇円、七インチオープンリール型のものを金一七〇〇円とした。

(二)  他の有線放送業者に販売のため有償で移出した場合

右の場合は、物品税法施行令一〇条の委任を受けた物品税法施行規則六条一項の「第二種の物品の製造者が消費者に販売する目的で、その製造に係る第二種の課税物品を当該製造に係る製造場から移出した場合」に該当し、同項一号及び二号の実績がないため、被告は、同項三号の「当該移出した物品の販売価格から小売業者の通常の利潤及び費用に相当する金額並びに当該物品に課されるべき物品税額に相当する金額の合計額として、国税庁長官の定める金額を控除した金額」により計算した。

なお、右同号中の「国税庁長官の定める金額」は、昭和三八年五月一日国税庁告示第八号「物品税法施行規則第六条第一項第三号に規定する小売業者の通常の利潤及び費用に相当する金額並びに当該物品に課されるべき物品税額に相当する金額の合計額を定める告示」をもつて、「規則六条一項三号に規定する販売価格に三〇パーセントを乗じて計算した金額と当該物品に課されるべき物品課税額に相当する金額との合計額」と規定されている。

(三)  以上により算出した本件テープの課税標準額は、別表(二)の「課税標準額」欄に記載のとおりの額となるから、これに、その各課税期間ごとに、次の税率を乗じて算出した本件テープの物品税額及び無申告加算税の額は、別表(一)に記載のとおりの額となるから、本件処分は適法である。

適用期間

税率

昭和四八年一〇月一日ないし

昭和五〇年九月三〇日

五パーセント

昭和五〇年一〇月一日ないし

昭和五一年九月三〇日

一〇パーセント

昭和五一年一〇月一日以降現行

一五パーセント

7原価計算法による課税標準額等

仮に、前記6に記載の算定方法による課税標準額が認められないとしても、別表(三)及び(四)の(1)ないし(4)に記載の原価計算による課税標準額は、別表(五)に記載のとおりとなる。

なお、別表(四)の(1)ないし(4)に記載の各費目ごとの数額の算出の根拠は、次のとおりであつて、すべて合理的かつ適正なものである。すなわち、

(一)  移出数量

原告の事業年度ごとの本件テープの移出数量である。

(二)  仕入価格

原告の事業年度ごとの磁気テープの規格別平均仕入価格である。

(三)  録音回数

生テープの規格ごとに、本件処分の対象期間(昭和四八年一〇月から同五三年三月)における本件テープの移出数量を、生テープの仕入数量で除して、本件テープ一本あたりの平均録音回数を算出したものである(この点については、後記8に詳述)。

(四)  生テープの単価

前記(二)の仕入単価を、右(三)の録音回数で除して算出したものである。

(五)  製造費用

(1) 機材等の原価

機材その他の原価は、原告決算上の機材その他の原価のうち、本件テープの製造に要した原材料の金額である。

また、細目中、生テープ仕入れとは、生テープの仕入金額のみを計上したものであり、「その他」は、生テープ仕入を除く機材その他の原価の金額である。

(2) 人件費

録音作業に従事したものに対応する分として、原告人事係が算定したものである。

(3) 減価償却費

原告備付けの「固定資産台帳」(乙七二号証)によれば、原告の場合、固定資産の減価償却を定率法により行つていることから、右定率法に基づき減価償却費を実額計算したものである。

(六)  録音作業費(単価)

生テープの仕入額を除く総製造費用を、期中における本件磁気テープの総録音時間で除し、これに本件テープの各々の録音時間を乗じて、各々の録音費用を算定したものである。

(七)  放送費用の各項目について

(1) 機材等原価

機材等原価とは、原告の決算上の機材等原価のうち、放送の用に要したと認められる機材等の仕入金額である。

(2) 人件費

原告の支店、放送所分の給与として、原告の人事係が算定したものである。

(3) 開発費

原告の決算上の全額を、放送費用とした。

(4) 施設使用料

原告の決算上の金額から、税務等調整額を調整し、その金額を放送費用として計上したものである。

(5) 著作権使用料

原告の決算上の全額を、放送費用とした。

(6) 減価償却費

原告の備付けの「固定資産台帳」(乙七二号証)によれば、原告の場合、固定資産の減価償却を定率法により行つていることから、右定率法に基づき減価償却費を実額計算したものである。

(八)  共通費用

(1) 総額の具体的な算出過程は、次のとおりである。

費用の総額+税務等調整額−絵画販売対応額−製造費用−放送費用=共通費用

なお、絵画対応額は、機材等原価、開発費、施設使用料、著作権使用料、以上四費目を除く各費用を、絵画売上とその他の売上の売上比率で按分して算出した。

(2) 右(1)で算出された共通費を、放送費用の総額と製造費用の総額の比率で按分して、それぞれ製造費用対応額、放送費用対応額として区分した。

なお、右製造費用対応額には、一般管理費のほか、本来録音費用(製造費用)に含まれるべきものも含まれている。しかし、これを完全に抽出して録音費用に加算することは非常に困難であり、かつ、一般管理費として共通費に含めておく方が計算上、より製造費用が減少することとなり、原告に有利となることから、共通費に含めて計算したものである。

(3) 原告会社には物品の販売という実績がなく、また販売費も実績がないため、右共通費の中には販売費は含んでいない。

(九)  一般管理費等

共通費のうちの製造費用対応額を、期中における本件磁気テープの総移出数量で除して、一本あたりの一般管理費等の額を算出したものである。

(一〇)  法定マージン

規則四条一項五号に規定する「……その一〇〇分の五に相当する金額」である。

(一一)  販売費用

製造費用と一般管理費の総額に、別表(六)に記載の販売費率を乗じて通常要すべき販売費の総額を推計し、これを移出本数で除して、一本当りの販売費とした。

なお、物品税法施行規則四条一項五号には、「販売するものとした場合において、通常要すべき費用」も、課税標準に付加すべき旨規定されているところ、物品税法の趣旨からすれば、納税者本人に販売費の支出がない場合には、同規模、同業者の販売費率で適正なものがあれば、その比率を用いて販売費を推計し、これを付加して適正な見積り原価計算を行う必要がある。

そして、被告は、販売費率を把握するため、ミュージックテープを製造販売している会社のうち、原告と規模等が最も類似していると認められる三社について、個別に臨場し、聴取調査をして、別表(六)に記載のとおりの販売費率を把握したのである。

(一二)  なお、昭和五二年九月ないし同五三年二月については、本件処分の調査時において、第一四期の決算未了のため、原価計算による課税標準額が算定できなかつたので、第一三期の金額を準用した。

以上のように算出した別表(五)に記載の課税標準額を基礎にして算出した物品税額は、本件処分の額を上廻るから、本件処分は適法である。

8録音回数の計算方法等

(一)  本件テープの録音回数は、乙七三号証の「磁気音声再生機用のレコード(生テープを含む)の受払事績表」(以下「事績表」という。)を算出の基礎資料とした。

右事績表の区分欄に記載されている「受」とは、原告の製造場へ磁気テープが受け入れられたことを意味し、このうち「仕入」とは、新品の磁気テープの受入れを「再生」とは録音済みの中古磁気テープの受入れを示すものであり、また、「払」とは製造場から放送所等へ磁気テープが払い出されたことを意味し、このうち「製品出庫」とは製品としての磁気テープの払出しを、「生テープ」とは未録音の磁気テープの払出しを示すものである。

そして、録音回数は、「払」の数量を「仕入」の数量で除したものである。

(二)  本件磁気テープの規格ごとの録音回数

(1) 一〇インチノーマルテープ

事績表によれば、昭和四八年一〇月から同五三年三月までの間の合計数量は、仕入れ一万二七七八本、再生用磁気テープの受入れ一万五二七八本、製品出庫二万八一七七本である。

また、原告のテープ仕入帳(乙五九号証、以下「テープ仕入帳」という。)によれば、昭和四八年九月に一〇インチノーマルテープを一三八〇本仕入れている。そして、事績表によれば、昭和四八年一〇月から同四九年九月の一〇インチノーマルテープの月平均製品出庫数量は五三〇本であり、昭和四八年九月に、そのうち多い目にみて三八〇本が新品磁気テープに録音したものであつたとしても、残り一〇〇〇本の新品磁気テープが昭和四八年一〇月以降に繰り越されたものと考えられる。

このように、事績表及びテープ仕入帳によると昭和四八年一〇月から同五三年三月の間の仕入れは一万三七七八本(繰越し一〇〇〇本、期間中の仕入れ一万二七七八本)、再生用テープの受入れは一万五二七八本、製品出庫は二万八一七七本となり、録音回数は2.05回(小数第三位四捨五入)となり、当該規格のものの録音回数を約二回としたものである。

(2) 七インチノーマルテープ

事績表によれば、昭和四八年一〇月から同五三年三月の間の合計数量は、仕入れ零本、再生用磁気テープの受入れ一三三一本、製品出庫一二七八本である。

右期間において、七インチノーマルテープの仕入れが全くない理由は、事績表をみれば明らかなように、右テープの製造の全盛時は、昭和四八年中ごろまでであり、以後は、製品出庫数も激減し、新たに磁気テープを仕入れる必要性がなくなつたからである。このような時期の受払数により、録音回数を算出すること自体やや問題のあるところである。

しかし、あえて七インチノーマルテープの録音回数を算出するならば、テープ仕入帳の昭和四八年九月の同テープの仕入れをみると九四〇本仕入れており、昭和四八年一〇月から同年一二月までの月平均製品出庫量(約二五〇本)からみて、同年九月の製品出庫量は、約二五〇本と推定され、当該二五〇本がすべて新品磁気テープに録音したものであつたとしても、残り六九〇本の新品磁気テープが同年一〇月以降に繰り越されたものと考えられる。

そうすると、七インチノーマルの昭和四八年一〇月から同五三年三月の間の仕入れは六九〇本、製品出庫は一二七八本となり、録音回数は約1.85回となることから、当該規格のものの録音回数を二回としたものである。

(3) 一〇インチUDテープ

事績表によれば、昭和四九年九月から同五三年三月の間の合計数量は、仕入れ二万八〇〇〇本、再生用磁気テープの受入れ五五本、製品出庫一万六〇六〇本である。

右数量からいえることは、再生用磁気テープの占める割合が極めて低く、使用回数は一回と推定される。

また、仮に再生用磁気テープ五五本が再録音されていたとしても、全受入数量(二万八〇〇〇+五五)に占める割合は0.196パーセントにすぎず、課税標準に影響を与えるものではない。

以上の事由から、当該規格のものの録音回数については、一回としたものである。

(4) 一〇インチUDバックコートテープ

事績表によれば、昭和五〇年三月から同五三年三月の間の合計数量は、仕入れ九四三本、再生用磁気テープ三三本、製品出庫四七一本である。このうち、再生入庫分については、昭和五一年八月に入庫したが、同月中にその他用として出庫しており、製品には用いられていない。

したがつて、右期間中においては、当該規格のものの録音回数については、一回としたものである。

(三)  録音回数の認定経緯

(1) 被告は、原告作成のテープ受払台帳等に基づき、磁気テープの規格ごとに録音回数を算出したものであるが、その録音回数の認定にあたつては、当然のことながら、調査担当者が調査結果から録音回数が判明した時点において、原告の事務担当者との間で質疑応答をし、被告算出の録音回数に異論のないことを確認したうえで認定したものである。

(2) また、有線放送業界における録音・再録音の実態を把握するため、他の有線放送会社にて被告が調査したところ、乙七八号証(聴取書)のとおり「一般に、一本の磁気テープに対する録音は一回限りであり、中古の磁気テープに再度録音するようなことはしない。」である旨有線放送業界の営業実態を述べているところからすれば、前記録音回数は正当なものである。

五被告の主張に対する原告の認否被告の主張はすべて争う。

六原告の主張

1本件テープは、物品税法別表の第二種一〇号の7に定める「磁気音声再生機用のレコード」ではない。

物品税法別表第二種一〇号の7に定める「磁気音声再生機用のレコード」とは、ミュージックテープ及びこれに準ずる商品を指すものであつて、不特定多数の一般大衆に販布し、再生させることを目的としたもので、商品としての体裁を有するものに限られるべきであり、販売又は販売と同等に評価される行為が本質的に予定されていないものは、除外されるべきである。ちなみに、物品税法別表第二種一〇号の7の規定は、従来から存在する円盤のいわゆる「レコード」と同等商品のテープの「レコード」の出現に伴つて、「磁気音声再生機用のレコード」を課税の対象としたのであるから、記録、保存して一般大衆の反復再生の用に供することを目的とした商品に限定されるべきである。

ところで、本件テープは、音を売るための媒体に過ぎず、いわば、音を運ぶための車であつて、テープという名の車が、何回も原告とその取引先とを往復し、その都度異つた音を各取引先に運んだに過ぎないのである。ちなみに、かつて、技術が未発達の時代には、テープの介在によつて音が運ばれていたが、現在は、回線を接続することによつて音を運ぶことが可能となつたのである。

そして、本件テープは、もともと女子従業員の深夜休日に及ぶ円盤レコード再生による放送という作業負担軽減のために考えられた放送テクニックであり、消費材としてのレコードを作成するためのものではなく、一般消費者に販売して流通に置かれることの全くないものである。したがつて、本件テープは、物品税課税の対象となる「磁気音声再生機用のレコード」ではない。

もつとも、本件テープも、一般大衆に販売することも不可能ではないし、消去せずに半永久的に反復再生することも可能である。しかし、本件テープは、その様な目的で録音されたものではないし、現にその様な販売利用に供されたこともない。ただ単に、「可能」であるというだけで、「レコード」扱いをすることは、旅客機を軍用機というに等しいのである。

2本件テープの録音行為は、物品税法三条二項の「製造」には該当しない。

すべてのテープの録音行為が、無条件に物品税法三条二項の「製造」に該当するのではない。テープの録音行為も、(1)テストのための録音、(2)機械の性能をテストするための録音、(3)実況録音、(4)マザーテープ作成のための録音、(5)ミュージックテープ又は円盤に対する録音等種々のものがあるが、このうち、録音されたテープが「レコード」の製造として課税の対象となるのは、(5)だけであり、その他は、右課税の対象となる製造ではない。

3本件テープについては、物品税法三条二項の「移出」はない。

物品税は、間接税であり、消費税であつて、担税者は、納税義務者ではなく、一般消費者である。したがつて、本来、物品税は、小売業者を納税義務者とし、課税物品を消費者に小売する段階で、課税することが理想的であるとされているが、実際には、徴税費用、課税技術等の関連で、第一種課税物品については、その物品の販売業者を、第二種課税物品については、その製造者を、保税地域から引取られる課税物品については、その物品の引取者を、それぞれ納税義務者としたのであつて、実際の税負担は、税額を商品価格に加算することにより、最終消費者に転稼されることが前提となつている。

ところで、本件テープについては、もともと一般の消費者が存在しない。物品税法上、「移出」もしくは「みなし移出」というのも、一般消費者に向けて商品が「出荷」される段階をとらえて課税時期とされるのである。無償譲渡、自己使用等「販売」以外の場合について課税されるのは、それが実質的に、一般消費者に対する販売と同価値の消費行為があるからであつて、本来、消費者が存在しない場合には、消費同等行為が存在せず、「移出」も、「みなし「移出」も考えられないのである。

そもそも、本件テープは、本来、各放送所で録音し、外に移出することなく放送に供すべきものを、各放送所を有する会社の規模の拡大、社員と能力等の諸事情から、例外的に一か所で録音して本件テープが作られただけであつて、本件テープの発送行為は、商品出荷及びこれに相当する「移出」の概念には該当しないのである。ちなみに、株式会社ゆうせん、株式会社日本ゆうせんは、原告の一〇〇パーセント出資の子会社であり、経理も実質的に同一であるし、他の発送先の会社も、原告の子会社又は実質的に子会社といつて差支えないものであるから、これらの会社の放送所は、実質的には、原告の放送所と全く差異がないのである。

したがつて、本件テープについては、「移出」も「みなし移出」もないのである。

4仮に、本件テープが物品税の対象になるとしても、その商品価値に応じて課税標準額が異る筈であつて、新品のものと廃棄寸前のものとが同一額であるということはあり得ないし、半分しか録音されていないテープとか、途中で切れて短かくなつているテープが、新品の一〇〇パーセント録音されているテープと同一額であることはあり得ないのである。再生を繰り返したテープは傷んで音質が悪いし、課税済のリールに再課税をして、二重課税をすることにもなる。なお、仮に、リール価格が本件テープの価格に含まれないとすれば、それは、本件テープが物品税の対象とならないからである。

以上要するに、本件テープの課税標準額を定めるについては、(イ)テープの品質、(ロ)テープが新品か否か、(ハ)中古の場合、その使用済回数の頻度、(ニ)テープの傷み具合、(ホ)リールが新品か否か、中古の場合の傷みの程度等、(ヘ)録音回数、(ト)演奏者のレベル、等の諸要素を勘案して、その実額、原価を算出すべきであるところ、本件処分は、これら実額算定の基本的要素をすべて無視している。

5課税標準額の混乱

物品税法基本通達八三条は、実額がなく、算定不可能な場合のために出された単なる便宜措置であつて、少くとも、本件テープに適用する合理性を欠き、この様な通達に基づく一方的な課税は、憲法の定める租税法律主義に違反するものというべきである。

仮にそうでないとしても、右八三条は、一〇インチオープンリール型のものを金二四〇〇円、七インチオープンリール型のものを金一七〇〇円としているが、被告は、本件テープ(すべてオープンリール型)について、右通達八三条に示されていない金一七五〇円、金一四〇〇円、金二八〇〇円、金五九五〇円(いずれも税込価格)としている。もつとも、右金五九五〇円は、他の業者に対する販売価格のことであるが、受け入れ金額は、作業実費であつて、販売代金ではない。

さらに、一〇インチノーマル2T、金一七五〇円、金二八〇〇円(税込)、七インチノーマル2T、金一七〇〇円、一三三三円、一七〇〇円(いずれも税抜)の価格差が生じた理由が不明である。他の業者に発送したものも含め、同一品目で単価が異る理由はない。ちなみに、他の業者といえども、同一経理の会社の受け入れ価格は零である。本件テープは、すべて販売価格の存しないテープであつて、異る単価の出る余地はない。

6二重課税

本件テープのうち、既に前回録音して発送したものを回収した後、そのまま再発送したものについて課税することは、前回発送の際に課税したものに再課税をすることになつて、二重課税をすることになるし、また回収したテープに新たに録音したものについても、前記のとおり、リールについては、二重に課税をしたことになつて、不当である。

右の点について、返還又はもどし入れの場合の物品税の控除等を定めた物品税法二八条は、通常の物品流通に応じ、返品等に対応するための規定であつて、本件テープの場合は、これと根本的に異るから、右同条の適用はない。本件テープの場合には、例外的に未使用の商品が返品されるのではなく、原則的な反復返送であり、いわばベアーのための返還、利用済による返還、廃棄のための返還であり、「新品としてそのまま再出荷」が想定される通常の商品とは、根本的にその移動構造が異るのである。本件テープについて、課税の行為の時点で既に課税された物品(いわば中古品)を当然に除外すべきであつて、二重課税を回避するために納税者の申告を必要とする旨定めた前記物品税法二八条の規定の適用はないのである。

7被告主張の原価計算法による課税標準額は、以下に述べるとおり、不当である。

(一)  本件処分をするに当つては、その適用の根拠を欠く物品税法施行規則四条六条及び本件テープの実額とおよそ関係のない通達八三条に基づいて課税標準額を決定したものであつて、原価計算法により実額を算出したものではないから、本訴において、原価計算法による課税標準額を主張することは違法であつて、許されない。

もし、当初から原価計算による実額が問題にされているのであれば、実額すなわち販売、取引という流通実績に基づく販売価格がないか、一切それが予定されていないことが明らかとなり、本件処分はなされなかつた筈である。しかるに、被告が、本訴において、本件処分の時に決定した課税標準額を上廻る原価計算を行い、一方的にその課税標準額を決め、かつ、主張することは、許されない。

(二)  本件テープの原価計算に当り、製造費用(録音費用)と放送費用を区別する合理性はないし、共通費用を、製造費用と放送費用に接分する合理性もない。なお、本件テープは、現実に販売されたことはないから、そもそも販売費用などあり得ないのである。

また、被告主張の経費は、いずれも推測に基づくものであつて、実額算定の基礎にはならないし、その販売費率の算出方法についても、全く合理性がない。

(三)  録音回数

本件テープについては、放送所の急激な増加に伴い、再録音をしないまま別の放送所に送つたり、また、原告に返送されないまま各放送所で再録音をされたものもあつたし、さらに、本件処分の対象となつた昭和四八年一〇月から同五三年二月までの間における「移出」テープのなかには、右期間よりも以前に購入された古いものもあつたし、右期間経過後に引き続き使用されているものもあつた。したがつて、本件テープの録音回数は、被告主張のような単純な計算方法で正確に算出されるものではない。本件テープの録音回数は、被告主張の如く、一回や二回ではなく、少くとも一〇回程度はあり、多いものは二〇回程度のものもある。

七原告の主張に対する被告の認否原告の主張は、すべて争う。

八被告の反論

1物品税課税の対象となる物品は、必ずしも不特定多数の者に販売することを目的とするものに限られるのではない。すなわち、

(一)  物品税法は、各種物品の中から、その物品のしやし性、娯楽性、装飾性、し好性及び便益性などの商品性向に重点を置いた上、その担税力に着目して、課税物品を選択、規定しているのであるから、この結果、これら課税物品の消程物品の消費者が、ごく限られた消費者しか存在しないとしても、別に問題とはならない。したがつて、「磁気音声再生機用のレコード」についてのみ、原告主張のように限定的に解釈する理由はない。

(二)  また、「磁気音声再生機用のレコード」について、物品税法施行令別表第一の一〇の7(原処分時)の該当欄には、その非課税物品として、特殊な性状、用途等のものを規定しているところ、このことは、物品税法に規定する「磁気音声再生機用のレコード」が、原告が主張するように「不特定多数の一般大衆に販布することを目的としたもの」に限定されていないことを示すものというべきである。

(三)  なお、本件テープについての消費行為の有無については、物品税法が、個々の物品を使い減らしていく消費という行為だけでなく、それと同等なものとして個々の物品の外見的な現状は残したまま使用する行為をも、その課税客体としていることは、物品税法六条一項、二項及び同法二八条一項、三項の規定から見ても明らかである。そして本件テープは、有線放送を行うため、原告及びその傘下の各放送所等において、磁気音声再生機用レコードの本来の用に使用されているのであるから、課税客体である「使用・消費」という行為が存在しているのは明らかである。

また、物品税課税の対象となる物品については、物品税法三条二項の要件を満たす限り、第三者である消費者の存在することは必ずしも必要でないのみならず、本件では、原告は、本件テープを原告とは別会社の原告傘下の各放送所に移出し、同所において使用、消費されているのであるから、本件テープについては、第三者である消費者も存在するのである。

2本件テープの課税標準額算出につき、原告主張のような不合理はない。

すなわち、原告は、本件テープの取引において、新しいテープに録音したものも、古いテープに再録音をしたものも、区別せずに取扱つているから、新しいものも古いものも同一の課税標準額とすることに不合理はない。

また、同一規格のテープであつても、取引形態及び販売価格等が異ることにより、その課税標準が異ることは当然である。

3本件処分に二重課税の違法はない。すなわち、

(一)  物品税法上の第二種の物品の納税義務は、当該物品の製造者が、当該物品をその製造に係る製造場から移出することにより成立するものである。したがつて、一度移出され物品税が課税されたものが、契約の解除等の理由により、その製造に係る製造場へ戻し入れられ、これを再び移出するときには、新たに納税義務が成立することとなり、形式的には同一物品について二重課税の事態が生ずる。

そこで、これを是正するため、物品税法二八条一項及び二項は、所定の申告手続を要件として、戻し入れ物品に係る物品税に相当する金額を控除又は還付することとし、二重課税を防止しているものである。

そして、右戻し入れ控除の規定の適用を受け、二重課税防止の措置を採るか否かは、納税義務者の意思に委ねられているのである。

したがつて、本件において、使用されずに返送されたテープをそのまゝ発送したものがあつたとしても、原告自身が所定の申告手続(法二八条四項、令四六条三項)を行つていないから、本件処分に二重課税の違法はない。

(二)  また、リールについては、本件の場合、当初から原告のもとに返還されることが予定されていたものであるから、リールの価格が本件テープの価格に含まれているとはいえない。

次に、原告が本件テープを他の有線放送業者に販売した場合、当該テープ価格にリールの価格が含まれていることもあり得るが、右の場合、リールが繰り返し使用されたにしても、それを前提として販売価格が設定された以上、リールの価格を含んだテープ価格を課税標準額とすることは、何ら背理ではなく、二重課税となるものではない。

4原価計算について

(一)  製造費用(録音費用)は本件テープに録音するために直接必要な費用を、放送費用は放送するために直接必要な費用を、共通費用とは右両費用に共通する費用もしくはいずれかの費用として抽出することの困難な費用である。右のように費用を分類したのは、本件テープのうち、物品税法施行規則四条一項一号ないし四号の実績のない製造磁気テープについては、同項五号により課税しなければならないが、そのためには、同号にいわゆる製造費用、販売費用を明確にしなければならないからである。

(二)  製造費用及び放送費用に共通する共通費用としては、本社費用や支店費用等の一般管理費があり、また、そのいずれかの費用として抽出することの困難な費用としては、原告の帳簿等によつても、製造費用、放送費用として抽出のできなかつたものである。そして、右共通費用を算出したのは、物品税法施行規則四条一項五号にいわゆる販売費用には、放送費用と共通にする一般管理費用も含まれているところから、一般管理費等の共通費用のうち、販売費用に要したものと思われる額を算出する必要があつたからである。

また、録音費用か放送費用かいずれかの費用に抽出することの困難な共通費用についても、これを一般管理費と合計した上、そのうちの録音費用対応額を、便宜販売費用に含ませることにしたのである。

九被告の反論に対する原告の認否被告の右反論はすべて争う。

一〇証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一被告が、原告において有線放送用に一時固定した本件テープを、物品税法一条別表第二種一〇号の7に定める「磁気音声再生機用のレコード」に該当するものとし、かつ、物品税法九条に基づき、非課税物品を定めた物品税法施行令別表第一に、有線放送の用に供する目的をもつて録音したものが掲げられていないとして、昭和五三年一二月一四日付をもつて、原告の昭和四八年一〇月分から同五三年二月分までのものにつき、別表(一)に記載のとおりの物品税本税額(合計金一二八一万七九〇〇円)及び無申告加算税額(合計金一二七万九一〇〇円)とする旨の本件処分をしたこと、原告は、これに対し、昭和五四年二月一五日、被告に対し、異議の申立をしたが、被告は、同年三月二九日に異議棄却の決定をしたので、原告は、さらに昭和五四年四月二五日、国税不服審判所に対し審査請求をしたところ、同審判所は昭和五五年九月一一日審査請求棄却の裁決をしたこと、以上の事実については、当事者間に争いがない。

二次に、〈証拠〉を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、原告は、昭和四八年ないし同五二年当時、大阪市南区南高津五番丁七番地の一に本店を置き、有線放送事業等をその事業目的とする資本金一億円の株式会社であつたこと(乙第七四号証の一ないし四参照)、原告は、当初はレコードを使用して有線放送をしていたが、その後人件費等の経費を節約するため、右昭和四八年一〇月から同五三年二月までの間に、原告の事業所内のスタジオにおいて、市販のレコードから、音楽等を磁気テープに録音して本件テープを作り、これを原告の事業所において自ら有線放送に使用し、或いは、原告傘下の各放送所に搬出して無償でこれを交付し、または、他の同業者(有線放送業者)に有償で販売していたこと、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

三  本件テープと原告の物品税納税義務

そこで以下に、本件テープに関し、原告に物品税の納税義務があるか否かについて判断する。

1  本件テープの物品税法上の課税物品該当性

本件処分当時の物品税法一条は、「別表に掲げる物品には、この法律により物品税を課する。」と定め、同法別表第二種一〇の7(現行法では別表第二種第一〇号の12)には、「蓄音器用又は磁気音声再生機用のレコードが掲げられているところ、右にいわゆる「磁気音声再生機用のレコード」とは、磁気音声再生機によつて再生するための声その他の音を録音した磁気テープ、磁気円盤等をいうものと解すべきである。そして、本件テープは、前記二に認定のとおり、有線放送に使用するため、市販のレコードから、音楽等を録音したものであつて、磁気音声再生機によつて再生するために音を録音したものというべきであるから、物品税法別表第二種一〇号の7に掲げる「磁気音声再生機用のレコード」に該当するものと解すべきである。

もつとも、原告は、「磁気音声再生機用のレコード」とは、音声の記録、保存を目的として音声の定着された商品をいうものと解すべきところ、本件テープは、一過性の音声定着、すなわち一日ないし数日で使用済となるものであるから、右「磁気音声再生機用のレコード」には該当しないと主張する。しかし、ある物品が、物品税法上の課税物品に該当するか否かの判断は、社会通念に従い、当該物品の性状、機能、用途その他の特性や、その市場性、しやし性、便宜性等を考慮して総合的に判断すべきであるところ、「磁気音声再生機用のレコード」が物品税課税の対象とされるのは、主として、磁気音声再生機によつて、磁気テープに録音された音声を繰り返し再生することができる点にあるのであつて、音声を定着させてこれを記録し保存することにあるのではないと解すべきである。そして、右のことは、例えば、音楽を録音した蓄音機用の円盤レコードの主たる目的は、これを蓄音器(又はステレオ)にかけ、音楽を再生して聞くところにあり、単なる音楽の記録、保存は、その附随的なものに過ぎないことや、磁気テープに録音した音声は、長期間に亘る反覆利用を目的としたものでも、短期間にその内容を容易に消却して新たな音声を録音することが可能なこと(以上の諸事実は、経験則上明らかである)等からも明らかというべきである。

また、原告は、前記「磁気音声再生機用のレコード」とは、ミュージックテープ及びこれに準ずる商品を指すのであつて、不特定多数の一般大衆に販布し、反覆再生させることを目的とした商品としての体裁を有するものに限ると解すべきところ、本件テープは、音を売るための媒体に過ぎず、消費材として、一般消費者に販売して流通におかれることを目的としたものではないから、前記「磁気音声再生機用のレコード」には該当しないと主張する。しかし、物品税法一〇条一項は、「第二種の課税物品の製造者(法人を除く)のうち、自己又は同居の親族の用に供する第二種の課税物品のみを製造するものには、この法律を適用しない。」と規定しているところ、この規定の趣旨からすれば、法人以外の個人が製造した自己又は同居の親族の個人的な使用又は消費にあてる物品については、それが一応第二種の課税物品に該当するものであつても、物品税を課さないが、業務用に使用されるものについては、それが不特定多数の大衆に販売することを目的としたものでないとしても、物品税課税の対象となるものと解すべきである。ところで、本件テープは、前記二に認定したところから明らかなとおり、原告や傘下の放送所及びその販売先の同業者がその業務用に使用することを目的としたものであるから、それが不特定多数の大衆に販売することを目的としたものでないとしても、物品税課税の対象となるものと解すべきである。

よつて、右の点に関する原告の主張は失当である。

2  本件テープの製造

物品税法三条二項にいわゆる「製造」とは、社会通念に従い、材料又は原料に物理的若くは化学的な変化を与え、操作を加えることにより、新たな課税物品を作り出す行為であつて、当該材料又は原料が新しいものであると古いものであるとを問わず、また素材であると製品であるとを問わないと解すべきであり、磁気テープへの録音については、未録音の磁気テープに録音する行為及び録音済みの磁気テープ等の録音を消去し、これに新たな録音をする行為は、「磁気音声再生機用のレコード」の製造に該当するものと解すべきところ、本件において、原告は、前記のとおり、市販のレコードから、音楽等を磁気テープに録音して本件テープを作つたもので、本件テープは、録音前の単なる磁気テープとは別個の価値を有する物品というべきであるから、原告は、「磁気音声再生機用のレコード」を製造したものというべきである。

もつとも、原告は、本件テープの録音作業は、有線放送機器の不可欠な部品を構成する放送用テープに、放送のため一時固定する作業であり、放送機器すなわちテープの使用行為、消費行為であつて、販売用のミュージックテープの録音とは異り、物品税法三条二項の「製造」に該当しないと主張する。しかし、本件テープが、有線放送用に一時的に使用するために音声を録音したものであるとしても、原告主張の如く、放送用機器の部分を構成する放送用テープに音声を一時固定させたものに過ぎないとは到底解し難い。却つて、磁気テープに音楽等を録音した本件テープは、その性質上、繰返し、磁気音声再生機にかけて音楽等を再生することが可能であつて、それ自体商品として販売することもできることは弁論の全趣旨から明らかであるばかりでなく、前記のとおり、原告は、本件テープを有線放送に使用するための業務用に作つたものであるから、原告の前記録音行為は、物品税法三条二項にいわゆる「製造」に該当するものというべきである。なお、原告は、ミュージックテープ又は円盤に対する録音以外の磁気テープへの録音は、すべて物品税法三条二項の録音に当らないと主張するが、右は、原告独目の見解であつて、到底採用できない。したがつて、右原告の主張は、失当である。

3  本件テープの移出

物品税法三条二項にいわゆる「移出」とは、物品税法別表第二種の課税物品を、その製造場から他の場所に移動させて搬出することをいい、右搬出の原因が、売買、交換等の有償であると、贈与等の無償であるとを問わないと解すべきである。そしてまた、物品税法六条一項は、「第二種の物品がその製造に係る製造場において使用され、又は消費された場合……には、当該製造者がその使用又は消費の時に当該物品を当該製造場から移出したものとみなす。」と規定しているから、当該課税物品が、その製造者により、当該製造場において、本来の用に供されて、使用又は消費されたときも、課税の要件である移出があつたことになるのである。ところで、本件において、原告は、前記認定のとおり、音楽等を録音して製造した本件テープの一部を、原告の事業所でその本来の使用目的である有線放送用に自ら使用し、また、他の一部を、これを製造した原告の事業所から他に搬出して傘下の各放送所や他の同業者に無償で交付し又は有償で販売したものというべきであるから、本件テープについては、物品税課税の要件である移出があつたものというべきである。

原告は、本件テープを録音室から物理的に移動させるのは、放送機器にセットするためのものであつて、付加価値の移動出荷である「移出」には該当しないとか、本件テープについては、一般消費者が存在しないし、また、本件テープは、本来各放送所で録音し、外に移出することなく放送に供すべきものを、各放送所の規模の拡大その他の諸事情から、例外的に一か所で録音することによつて、本件テープが作られたに過ぎないから、本件テープの発送は、「移出」の概念に該当しないと主張する。しかし、物品税法三条二項にいわゆる「移出」とは、前記のとおり、第二種の課税物件をその製造場から他の場所に搬出することをいうものと解すべきであるから、本件テープについて、前記の如くその製造場から他の場所に搬出する行為がある以上、仮に原告主張の諸事情があるとしても、本件テープについて、移出のあつたことを否定することはできない。よつて、右原告の主張も失当である。

4そうとすれば、本件テープは、本件処分当時の物品税法別表第二種一〇号7に掲げる「磁気音声再生機用のレコード」に該当する物品であり、かつ、原告は、本件テープの製造者であつて、その製造にかかる本件テープをその製造場から移出したものというべきであるから、原告は、本件テープに関し、所定の物品税を納付する義務があるものというべきである。

四  税額

1  移出数量

〈証拠〉を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、(1)原告は、前述のとおり、昭和四八年一〇月から同五三年二月までの間に、本件テープを製造して、これを自から有線放送に使用し、また、訴外北海道音楽供給株式会社その他の関連会社等に、有償又は無償で譲渡して移出したこと、(2)乙第二号証、同第三号証ないし第二一号証の各一、二、同第二二号証ないし第五一号証の各一ないし四の各書面は、当時、原告の担当者が各事業所(放送所)への納品伝票等に基づき、その都度、昭和四八年一〇月から同五三年二月までの間に、原告が磁気テープに音楽等を録音した本件テープを一〇インチ、七インチ等の種類に整理し、各取引先(放送所)に送付したり、その後返還を受けたものの数量を記載したものであり、乙第五二号証の一ないし三は、その後被告の担当者が右同様の方法で整理して作成したものであること、(3)また、乙第五三号証の一ないし三は、原告が被告から本件テープ等に対する物品税の調査を受けた際、原告の資材課長桐田裕民が、原告備付けの納品伝票控、請求書控、テープ月間報告書に基づき、本件テープを販売移出した販売先や、数量、販売価格等を整理して作成した明細書、確認書等であること、(4)さらに、乙第七三号証は、被告の担当者の小西信幸らが、原告の保管していた帳簿や、前記乙第二号証、同第三号証ないし第二一号証の各一、二、同第二二号証ないし第五一号証の各一ないし四、同第五二号証の一ないし三の各書面に基づき、昭和四八年一〇月から同五三年二月までの間の原告の生テープの仕入れ、原告が磁気テープに録音した本件テープのうち、各事業所に送付したものや、その使用後に送付を受けたもの等を、一〇インチと七インチの種類別に整理して作成したものであること、(5)そして、右(2)ないし(4)に記載の乙号各証等によれば、結局、原告が昭和四八年一〇月から同五三年二月までの間に、移出した本件テープの各月の移出数量は、一〇インチノーマル、七インチノーマル、一〇インチバックコート、一〇インチUDについて、それぞれ別表(二)の「移出数量」欄に記載のとおりの数量であること、例えば、乙第五三号証の三の昭和四八年一〇月の欄に一〇インチテープ金三〇〇〇円として、「一〇三」とあるは、別表(二)の昭和四八年一〇月の欄の「一〇インチノーマル一〇三」に該当し、乙第二号証の三枚目下の方に、「一〇インチ」「発送六九五本」「七インチ」「発送二九三本」とあり、また乙第七三号証の昭和四八年一〇月の欄の「一〇インチノーマルテープ製品出庫」欄に「六七七」、「七インチノーマルテープ製品出庫」欄に「二九〇」とあるは、いずれも別表(二)の昭和四八年一〇月の欄に記載の移出数量に該当すること、(但し、乙第一〇号の二の一枚目「姫路」の欄に「5」とあるは「4」の誤りであり、以下同様に、乙第一四号証の一の五枚目「福島」の欄に「118」とあるは「110」の、乙第一五号証の一の五枚目「奈良」の欄に「5」とあるは「4」の、乙第一六号証の二の一枚目「新潟」の欄に「18」とあるは「17」の、円「富山」の欄に「5」とあるは「4」の、乙第二二号証の一の五枚目「佐伯」の欄に「56」とあるは「47」の、乙第二七号証の一の三枚目「浦和」の欄に「40」とあるは「51」の、乙第三五号証の三の最下段に合計「474」とあるは「312」の、乙第四二号証の二の一枚目「大分」の欄に「10」とあるは「9」の、乙第五一号証の三の五枚目「前橋」の欄に「48」とあるは「49」の、同「岡山」の欄に「42」とあるは「52」の、同最下段の合計「380」とあるは「381」の、それぞれ誤りであつて、右は、いずれも単純な計算上の誤りである。)以上の事実が認められ、右認定に反する証人林民雄の証言はたやすく信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

そうとすれば、原告が昭和四八年一〇月から同五三年二月までに移出した本件テープの数量は、別表(二)の「移出数量」に記載のとおりの数量であるというべきである。(なお、被告は、本件テープの移出数量につき、本件処分当時及び本件訴え提起当時の主張をその後一部変更して、別表(二)に記載のとおりの数量に改めた。)。

2  課税標準額

(一) 原告の製造した本件テープには、前記二、三に認定したとおり、(イ)原告自ら使用したものと、(ロ)原告傘下の各放送所に無償で移出したものと、(ハ)他の同業者(有線放送業者)に有償で販売して移出したものとがある。

(二)  ところで、物品税法一一条一項二号の規定による本件テープの課税標準額は、前記認定の移出の形態に鑑み、同条三項の規定により委任を受けた本件処分当時の物品税法施行令一〇条後段の「販売以外の目的で当該物品を当該製造場から移出した場合、その他前二条の規定に該当しない場合」に該当するので、原告自から有線放送に使用し、また、原告傘下の各放送所に無償で移出した本件テープについては、物品税法施行規則四条一項三号の規定により計算すべきである。

次に、〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。すなわち、(1)本件テープのうちには、右物品税法施行規則四条三項の規定により課税標準額を計算することはできず、また、右規則四条三項五号の原価計算の方法によるとしても、原告の業務の特殊性から、その正確な額を算出することが困難な上、強いて算出した額は、極めて高額となるので、結局物品税法基本通達八三条によつて、その課税標準額を算定するのが相当であるものもあること、(2)そして、右基本通達八三条では、磁気テープに音楽等を録音したMGTテープの課税標準額(いわゆる税抜価格)は、一〇インチオープンリール型のものについては一個当り金二四〇〇円、七インチオープンリール型のものについては一個当り金一七〇〇円とされていること、(3)訴外株式会社朝日ミュージックサービスは、カートリッジ型の業務用BGMテープを製造しているが、これに対する物品税については、右基本通達八三条を合理的なものと認め、これに従つてその申告をしていること、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そうとすれば、本件テープのうち、原告が自から使用したもの及びその傘下の各放送所等に無償で移出したもので、物品税法施行規則四条一項三号によつてその課税標準額の算出することができるものの課税標準額は、これによつて算出し、右規則四条一項三号によつて課税標準額を算出できないものの課税標準額は、前記基本通達八三条により、一個当り、一〇インチのものは金二四〇〇円、七インチのものは金一七〇〇円と認めるのが相当である。

(三)  次に、本件テープのうち、原告が他の有線放送業者に有償で販売して移出したものについては、物品税法施行規則六条一項の「第二種の物品の製造者が消費者に販売する目的で、その製造に係る第二種の課税物品を当該製造に係る製造場から移出した場合」に該当するところ、本件においては、弁論の全趣旨により、同項一号及び二号の実績のないことが認められるから、同項三号の「当該移出した物品の販売価格から小売業者の通常の利潤及び費用に相当する金額並びに当該物品に課されるべき物品税額に相当する金額の合計額として、国税庁長官の定める金額を控除した金額」により計算すべきである。なお、右国税庁長官の定める金額は、昭和三八年五月一日国税庁告示第八号「物品税法施行規則第六条第一項第三号に規定する小売業者の通常の利潤及び費用に相当する金額並びに当該物品に課せられるべき物品税額に相当する金額の合計額を定める告示」をもつて、「規則六条一項三号に規定する販売価格に三〇パーセントを乗じて計算した金額と当該物品に課せられるべき物品税額に相当する金額との合計額」とされている。

(四)  そして、〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。すなわち、(1)右(二)(三)の計算方法によつて算出した本件テープの各課税標準額は、別表(二)の「課税標準額」欄記載のとおりの額となること、(2)なお、右課税標準額の具体的な算出方法については、例えば、別表(二)の昭和四八年一一月の一〇インチノーマル、一二個の一個当りの販売価格は金二五〇〇円であるから(乙第五三号証の三の昭和四八年一一月の欄参照)、これに七〇パーセントを乗じた額(国税庁長官の告示により三〇パーセントを控除した税込の残額)は、別表(二)の「税込価格」欄に記載のとおり金一七五〇円となり、また、昭和五一年一〇月の一〇インチUD、五個の一個当りの販売価格は、金八五〇〇円であるから(乙第五三号証の三の昭和五一年一〇月の欄参照)、これに右七〇パーセントを乗じた額は、別表(二)の「税込価格」欄に記載のとおり金五九五〇円となるところ、右は、税込価格であるから、右金額から税額を控除し、その残額に移出数量を乗ずれば、その課税標準額は、別表(二)の「課税標準額」欄に記載のとおり、金一万九九九二円、金二万五八六五円となること、(3)右は、物品税法施行規則六条一項三号による計算方法であるが、同規則四条一項三号による計算も、右に準じて計算し、また、基本通達八三号によるものについては、一〇インチのものを金二四〇〇円、七インチのものを金一七〇〇円として、計算すれば、その課税標準額は、それぞれ別表(二)の「課税標準額」欄に記載のとおりの額となること、(4)そして、本件テープのうち、右計算方法のいずれによるかの区別の内訳は、別表(二)の「課税の根拠」欄に記載のとおりであること、(なお、別表(二)に記載の昭和五〇年五月分及び昭和五一年四月分については前記規則四条一項四号所定の実績がないので、規則八条五項による)、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

3もつとも

(一) 原告は、本件テープのなかには、新品のものと廃棄寸前のものとがあるし、また、半分しか録音されていないテープとか途中で切れて短かくなつているものがあるのに、これを区別せずに、同一の基準で課税標準額を算出するのは不当であると主張する。しかし、本件テープのなかには、新品のものと何回も再生し録音したものとがあるにしても、有線放送に支障の生ずるようなものが移出されたことを認め得る証拠はないから、前記2の(二)(三)の方法によつてその課税標準額を算出するに当つては、原告主張の古いものの方が右課税標準額よりも低額である等の特段の立証のない限り、右新品のものとそれ以外のものを特に区別してその課税標準額を定める必要はないと解すべきである。また、本件テープのなかには、半分しか録音されていないものがあるとか、途中で切れているものがあるとの事実を窺わせる証人林民雄の証言はたやすく信用できず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。よつて、右の点に関する原告の主張は、失当である。

(二)  次に、原告は、物品税法基本通達八三条は、実額がなく、算定不可能な場合のために出された単なる便宜措置であつて、少くとも、本件テープに適用する合理性を欠き、この様な通達に基づく一方的な課税は、憲法の定める租税法律主義に違反すると主張するが、前述のとおり、本件テープのうち、原告が自ら使用したもの及びその傘下の各放送所に無償で移出したもので、物品税法施行規則四条一項三号によつて課税標準額が算出できないものについては、その販売価格がなく、また、その製造原価を正確に算出することも困難であるから、右基本通達の内容が特に不合理であるとか、本件テープの製造原価が、右基本通達八三条に定める額よりも低額であることの事実を認めるに足りる証拠のない本件においては、右基本通達に従つて、その課税標準額を算出することは、合理的であつて、何ら違法、不当ではないと解すべきである。ちなみに、右基本通達八三条の内容が合理的なものとして、これに従つて、物品税の申告をしている原告の同業者もいることは、さきに認定したとおりである。

よつて、右の点に関する原告の主張も失当である。

(三) 次に、原告は、被告は、本件テープについて、前記通達八三条に示されていない金一七五〇円、金一四〇〇円、金二八〇〇円、金五九五〇円等同一品目であるのに、単価の異る課税標準が算定されていて不合理であると主張するが、前記のとおり、本件テープについては、原告が自から使用したり、原告の傘下の各放送所に無償で移出したり、さらには、他の有線放送業者に有償で販売したものがあつて、その計算方法が異るし、また、前掲乙等五三号証の一ないし三によれば、同じ一〇インチのノーマルテープでも、その販売価格が、販売先や販売の時期によつて異ることが認められるから、前記1の(二)(三)の計算方法により算出した課税標準額に差異のあることは当然である。よつて、右の点に関する原告の主張も失当である。

(四)  次に、原告は、本件テープのなかには、既に前回録音して発送したものを回収した後に、そのまま再発送したものがあるのに、これに課税することは二重課税であり、また、回収したテープに新たに録音をしたものに課税することは、リールに関しては同一のものが使用されているから、リールに二重課税がなされたことになつて不合理であると主張する。

しかしながら、物品税法二八条は、第二種の物品の製造者がその製造にかかる第二種の課税物品で、当該製造場から移出したものを、その後当該製造場にもどし入れた場合には、原則として、当該製造業者が所定の申告手続をしたときに限り、右課税物品に対する物品税相当額を控除し又は還付することと定めているところからすれば、第二種の課税物品の製造者が、その後もどし入れた物品について、さらに課税される二重課税を避けようとすれば、右同条に定める所定の申告手続をとることが必要であつて、右申告手続を怠つた場合には、同一物品について再度課税しても、二重課税の違法はないと解すべきである。ところで、原告は、本件において、二重課税と主張する本件テープ等について、右物品税法二八条所定の申告手続をとつていないことは、弁論の全趣旨から明らかであるから、本件テープに対する課税について、二重課税の違法の生ずる余地はないというべきである。なお、原告は、本件テープは、通常の商品と異り、原則的な反復返送であり、いわばリペアーのための返還、利用済による返還、廃棄のための返還であること等を理由に、本件テープについては、物品税法二八条の適用はないと主張するが、右は原告独自の見解であつて採用できない。

なお、リールについては、さきに本件テープが出荷され、その後に回収されて、再度録音をするに際し、同一のリールが使用されたとしても、右再度録音した本件テープの販売等に際しては、リールの価格も含めて当該販売価格が定められているものというべきであるから、もともと二重課税の問題は生じないものというべきである。

よつて、右の点に関する原告の主張も失当である。

4次に、本件テープに対する物品税の税率は、昭和四八年一〇月一日ないし同五〇年九月三〇日までは五パーセント、同五〇年一〇月一日から同五一年九月三〇日までの税率は一〇パーセント、同五一年一〇月一日以降は一五パーセントであるから、前記2に認定の本件テープの一個当りの課税標準額に前記1に認定の移出数量を乗じ、これに右税率を乗じてその税額を算出すると、昭和四八年一〇月から同五二年二月までの各月の税額は、別表(二)の「税額」欄に記載のとおりの額となり、また、無申告加算税は、右同表の「無申告加算税額」欄に記載のとおりの額となることは、計算上明らかである。

五  結論

そうとすれば、物品税は各月毎に課税することになつているので、本件処分のうち、昭和四九年六月、同年一〇月、同年一一月、同年一二月、同五〇年六月、同五一年七月、同五二年二月の各月の分の物品税決定処分について、別表(二)に記載の右各月に対応する「税額」欄に記載の各金員(昭和四九年六月分は金五万八〇〇〇円、同年一〇月分は金一〇万八六〇〇円、同年一一月分は金九万〇七〇〇円、同年一二月分は金七万六五〇〇円、同五〇年六月分は金一二万四九〇〇円、同五一年七月分は金二九万四〇〇〇円、同五二年二月分は金二六万九八〇〇円)を超える部分、及び、昭和四九年一〇月、同五〇年六月、同五一年七月、同五二年二月の各月の分の無申告加算税額について、別表(二)の右各月に対応する「無申告加算税額」欄に記載の各金員(昭和四九年一〇月分は金一万〇八〇〇円、同五〇年六月分は金一万二四〇〇円、同五一年七月分は金二万九四〇〇円、同五二年二月分は金二万六九〇〇円)は超える部分は、いずれも違法であつて取消を免がれないが、その余は適法である。

よつて、本件処分の取消を求める原告の本訴請求は、右各金員を超える部分の取消を求める限度で正当であるから右の限度で認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用につき行訴法七条民訴法九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(後藤勇 大沼容之 高橋正)

別表(一)

物品税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分の一覧表

金額

課税標準額

税額

無申告加算税の額

月分

昭和 年 月分

48.10

1,847,000

92,300

9,200

48.11

1,332,000

66,600

6,600

48.12

1,697,000

84,800

8,400

49.1

734,000

36,700

3,600

49.2

620,000

31,000

3,100

49.3

936,000

46,800

4,600

49.4

1,032,000

51,600

5,100

49.5

1,059,000

52,900

5,200

49.6

1,163,000

58,100

5,800

49.7

1,335,000

66,700

6,600

49.8

664,000

33,200

3,300

49.9

1,226,000

61,300

6,100

49.10

2,188,000

109,400

10,900

49.11

1,816,000

908,00

9,000

49.12

1,534,000

76,700

7,600

50.1

1,213,000

60,600

6,000

50.2

1,363,000

68,100

6,800

50.3

1,836,000

91,800

9,100

50.4

1,514,000

75,700

7,500

50.5

1,566,000

78,300

7,800

50.6

2,523,000

126,100

12,600

50.7

2,235,000

111,700

11,100

50.8

1,271,000

63,500

6,300

50.9

1,883,000

94,100

9,400

50.10

1,540,000

154,000

15,400

50.11

4,316,000

431,600

43,100

50.12

978,000

97,800

9,700

51.1

1,466,000

146,600

14,600

51.2

1,555,000

155,500

15,500

51.3

1,655,000

165,500

16,500

51.4

3,198,000

319,800

31,900

51.5

3,497,000

349,700

34,900

51.6

2,007,000

200,700

20,000

51.7

3,338,000

333,800

33,300

51.8

3,548,000

354,800

35,400

51.9

2,146,000

214,600

21,400

51.10

2,370,000

355,500

35,500

51.11

4,359,000

653,800

65,300

51.12

2,063,000

309,400

30,900

52.1

2,482,000

372,300

37,200

52.2

1,801,000

270,100

27,000

52,3

3,520,000

528,000

52,800333

52,4

3,286,000

492,900

49,200

52,5

1,808,000

271,200

27,100

52,6

5,414,000

812,100

81,200

52,7

4,966,000

744,900

74,400

52,8

2,664,000

399,600

39,900

52,9

4,158,000

623,700

62,300

52,10

1,200,000

180,000

18,000

52,11

2847,000

427,000

42,700

52,12

2,377,000

356,500

35,600

53,1

1,366,000

204,900

20,400

53,2

7,752,000

1,162,800

116,200

合計

12,817,900

1,279,100

別表(三) 原価計算法による課税標準の具体的算定方法〈省略〉

別表(四)の(1) 原価計算法による課税標準算出過程表 第10期(自昭48.9.1至昭49.8.31)分〈省略〉

別表(四)の(2) 原告計算法による課税標準算出過程表

第11期(自昭49.9.1至昭50.8.31)分〈省略〉

別表(四)の(3) 原価計算法による課税標準算出過程表

第12期(自昭50.9.1至昭51.8.31)分〈省略〉

別表(四)の(4) 原価計算法による課税標準算出過程表

第13期(自昭51.9.1至昭52.8.31)分〈省略〉

別表(五) 原価計算法による課税標準〈省略〉

別表(六) 販売費率算出表〈省略〉

別表(七)の(1) 調査対象者別販売費率算出根基表(調査対象者 A社)〈省略〉

別表(七)の(2) 調査対象者別販売費率算出根基表(調査対象者 B社)〈省略〉

別表(七)の(3) 調査対象者別販売費率算出根基表(調査対象者 C社)〈省略〉

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